北京五輪・女子10000m:クリアで静かな闘志がもたらしたもの
日本陸上の未来を考えると絹川の欠場が非常に悔やまれる女子10000m。
日本からエントリーしたのは、渋井、福士、赤羽。
ランキングで渋井が7位、福士が8位ではあるので、どちらかなんとか、一ケタ順位で走ってもらいたい。ただし、いずrめおマラソン転向の痛手を追っており、以前のようなフレッシュなレースは期待できない。
マラソン経験を積んだなりのレースを。
レースは、昨年の大阪世界陸上で、終盤のスプリント争いを展開したディババ妹とアベイレゲッセ、そしてオランダのキプラガトを中心に展開と予想。今年、5000mの世界記録を出したディババ妹が優勝候補筆頭。ヘルシンキ、大阪に続く世界大会三連勝を狙う。
大阪とはうってかわって、キプラガトが、一周72-73秒のペースを作ってイーブンで引っ張る。5000mを15分9秒で通過したときには、縦長の集団に15人。(ちなみに大阪の時の通過は16分27秒!)。
福士はそこまでは頑張っていたが、食らいついていた5名とともに沈んでいく。さすがにこのペースでは冗談でも前には出られない。
キプラガトの後ろに、アベイレゲッセ、エチオピアのディババ妹とトゥファ、マサイとワングイのケニア勢、前日に食中毒になったというアメリカのフラナガン、ディババ姉は後ろで様子見。生まれた国で見ると、エチオピア4人のケニア3人だ。
6000mを過ぎたところで、アベイレゲッセが仕掛ける。
70を切るペースで揺さぶりをかけた後、残ったのは、ディババ妹と二人。
二人だけを見ていると、全く無理なペースには見えないが、遅れていく選手達と比べることで、二人の異質さと冷たい緊張感が伝わる。
彼女たちにとっては、誰もついて行けないこのペースもまだ、駆け引きのようだ。
8000-9000mはついに2分55秒。しかし、何も起きない。
静かに、この時を待っていたかのように、アベイレゲッセとディババの序列が続いたまま、鐘が鳴る。
アベイレゲッセが、やや仕掛ける。2コースによけた周回遅れの選手が多く、ディババのポイントがなさそう。
と、カーブの終わりに向かってディババがスピードを上げる。アベイレゲッセはそれなりに反応。二人の前に周回遅れの選手。アベイレゲッセがそこまで粘れれば、ディババはスピードダウンを余儀なくされるが、どうか・・・
果たして、間一髪のところで、ディババがアベイレゲッセの前に体をねじ込む。
逆にスピードを少し抑えられた感のあったアベイレゲッセの抵抗はバックストレートいっぱい持たず。
ディババのスパートはゴールまで続き、29分54秒の五輪新記録、そしてアフリカ記録、なんといっても、(怪しい)王軍霞の記録につぐ世界歴代2位の記録を叩きだした。
アベイレゲッセも、あきらめずによく走り、欧州記録、歴代3位の29分56秒。
3位には、ケニアコンビをかわしてきた、フラナガンが、食中毒にもめげず北米新記録を樹立。
4位に終わったがマサイはケニア記録、そして世界ジュニア新記録を打ち立てた。
キプラガトも8位に入り、お膳立てだけには終わらなかった。
なにより、好レースを演出し、記録ラッシュを導いたのは、彼女の功績であろう。
ディババ姉は控えていたと思いきや、浮上できず14位まで沈み、アテネ銀の雪辱は妹頼みになってしまった。
厳しいレースを勝ち抜いた実力者が、魅力的なレースを展開して、順当にゴールした、と言えるだろう。アベイレゲッセとディババはどちらが勝っても"No Great Surprise"という見出し(IAAFより)には変わりなかったと思われる。
上位15人中9人が自己記録を更新した中、日本・中国のアジア勢は記録更新ならなかった。
福士は、後半良く粘って、31分1秒で11位。三年ぶりの好記録で、一ケタ順位こそならなかったが、良く健闘したと言ってあげたい。
渋井は、最初からレースには参加していなかったのだから、福士を抜くぐらいのところまで行ってほしかった。
赤羽は、解説の増田さんによると家族で熱を出したそうだが、全くの見当違いの慰め。経験不足を露呈した力通りのレース。良くも悪くもない。
どうでもいいけど増田さんにはフラナガンを見て勉強してもらいたい。
本人が言い訳を公にしてないのだから、黙っておきなさい。
さあ、次は5000m。
今度こそアベイレゲッセの雪辱は果たせるのか?
(出るのか?)