2008.3.9 名古屋国際女子マラソン:別次元の第一人者

風の強い2000年の名古屋で、高橋尚子が折り返しを過ぎてから爆発的にスピードアップしたレースの衝撃が、忘れられない。これまでの日本人のレースではないぞ、という新時代を感じた。

あれから、もう8年。

高橋は、シドニーでも期待された強さを見せ、そしてベルリンでは期待された速さを記録という形で見せてくれた。

彼女は、最初に与えた衝撃と、それに対する僕らの期待に、見合うだけの結果を次々と生み出してくれたように思う。

結果的にアテネを逃すこととなった、2003年東京での失速。あの時点で、僕らは野口みずきからさらに強い衝撃を得ていた。

だから、これまでの高橋の功績を忘れたかのように、衰えを声高に叫んだのか。印象的な世代交代を強引に望んだのか。

高橋軍団の設立にいたって、トップアスリートとして結果を追い求める彼女の役割は終わったはずだ。

今、彼女に託されているのは、新しい個人アスリート活動の形への挑戦といえよう。

プロフェッショナルとして戦う、海外アスリートと同じ視点で、走り続ける可能性を見せることではないか。

その点で、次のステージに上がっていたはずの彼女に期待したかった点。

故障やケガを隠してゲームに臨むのは、スポンサーに対する背信であり、そういったアマチュア精神を排除して欲しかった。

事前に公表して、批判にさらされることもプロの一側面だ。

もっとも今回「スタート時には優勝を狙っていた」というコメントからは、身体の自己判断ができていなかったようにも感じられる(それはそれでプロ失格のような気もするが)。

でも、で、あるならば、レースが終わってから、そのような言い訳じみた手術の公表は、やめて欲しかった。それを言っちゃ、プロとして、おしまいでしょ。

出るなら言わない、言うなら出ない。

彼女の周りに、そうしたことを提案できるスタッフがいなかったんだろうか。

もちろん無理を押して出ることも、スポンサーとの契約などプロとしての責任感の現れなんだろうが。

でも、故障を隠してゲームに出て、4分の1も走らないうちに脱落というのは、騙して金儲けしているようにしか、見えない。

もちろん、手術のことは契約している関係者には事前に連絡してあったと信じたい。そういう信義の問題ではなくて、トップアスリートとして道を拓くべき存在の彼女が、後進に見せるべき姿ではなかった、と思う。

そして、もう一つ。

これも契約事項だったのかもしれないが、五輪選考会にこだわって欲しくなかった。

五輪を目標とするのは悪くはない選択だが、故障したのならその時点で目標を切り替えることができる立場のはずだ。

彼女はすでに名誉を手にしており、どんな不甲斐ないレースをしたって、それは褪せることはない。目標を賞金レースに切り替えて、記録や順位を目指して欲しかった。

もっとはっきり言うなら、契約で儲けるだけでなく、賞金で儲けていく姿を、見せて欲しかった。五輪二勝も素晴らしいことだが、彼女には、有森に続いて、日本人のマラソンランナーの、一つの究極形を見せて欲しかった。

レース自体は、スローな入りから、後半多くの選手が仕掛けた結果、中村の仕掛けが勝り優勝した。スパート後の走りは力強かった。タイムは2時間26分を切っただけだが、気温と展開を考えるとタイムも悪くない、そして勝ち方が良かった。

とはいえ、フジ、サンスポ、産経新聞などがそろって「当確」とだすほどのインパクトはない。怖さ知らずの初マラソンと言うのも、五ヶ月後の次レースへの不安材料。一方で、大阪の森本はクレバーなレースをした。タイムもわずかだが中村を上回った。経験値も高い。

ただ、陸連が女子マラソン選考で、三人目に期待するところは、メダルじゃないだろう。

(増田さんは選考会ではメダルの取れる人を選ぶ、と言っていたが独占する気か)

現実的には、野口でメダル、土佐で入賞が妥当な線だ。うまくいけばダブルメダル、トリプル入賞はあるのかもしれないが、三人目にはなにより将来性を買いそうだ。純粋に力のある三名、ではなくてその線だと、やはり中村だろうか。

ふと、福士が大阪ではなく、名古屋に回っていたらどうだったろうか、と考える。

おそらく福士は、大阪同様にハイペースで独走を試みただろう。二位集団も今日ほどスローではいけないので、早めにばらける。そうすると、原や坂本の逆転劇、となって初マラソン組の中村や尾崎がつけいる隙は、あまりなかったかもしれない。

逆にその場合、大阪では誰が勝ったのだろうか。いや、誰が日本人トップになったのだろうか。やはり森本だったのだろうか。

そして選考はどうなったんだろうか。

空想にしか過ぎないが、結果的に、中村の出現があったことで、女子マラソン界は多少ポジティブな転換が期待できそうだ。渋井や福士への幻想はいったん置いて。

今日の代表選手選考は、ベトナムで確認することになります。いや、確認できるのかな?

追記です

マラソンの代表、発表されましたね。

男子は、尾方、佐藤、大崎、補欠に藤原

女子は、土佐、野口、中村、補欠に森本

「一般の人の期待値と、陸連の目標はずれていない」という高野さんと、「男子はメダルは厳しい」という沢木氏。

まあ、それはさておき、選手の科学的なサポートはもちろん、マラソンが走れる準備をしてのぞむ補欠の選手に対してもなにがしかのサポートをしてやって欲しいと思います。海外マラソンの遠征費だったりとかでもいいから。