大阪国際女子マラソン

一生の間に、何回マラソンを走れるか、それはわからない。年配になっても市民ランナーとしてチャレンジできるのがマラソンの良いところだ。

ただ、一線級の選手として、自己記録を狙って走れる期間は、それほど長くない。それほど何回もチャンスはない。

2007年大阪国際女子マラソンは、夏の世界陸上の選考会として、また来年に迫った北京五輪を見据えたレースとして、注目された。見る側としては、そういう見方はある。実力者が、どうやって選考レースを勝ち抜いて、世界陸上に向かっていくのか、あるいは、思いがけない新星が誕生し世界の舞台の切符をつかむのか、興味を持ってみることで、レースの面白みは増す(そもそも、急激な展開が少なく、観戦時間が長いので、色々妄想する必要がある、ともいえる)。

だが、走る側は、どうだろう。もちろん、選考レースであることは理解しており、世界選手権に出場したい気持ちはあるだろう。しかし同時に、大阪国際女子マラソンも、選手にとっては、貴重な一回のマラソンなのだ。将来のレースに向けてではなくて、この目の前のレースに向けて、何千キロも走り込んできたのだ。単なるステップとして消費することのできるレースなどないのではないか。

大阪国際女子マラソンは、渋井と原の飛び出しで幕を開けた。ペースメーカーが不安定なのか、距離表示が不安定なのか、1km毎のペースは十秒程度変動する。その上で、ペースメーカーは10km持たずに早々に消えた。それまでは、二人の50m程度後ろに、第二集団がつけていたが、ペースが3分20秒程度で安定すると、徐々に離されていく。渋井と原は、大会記録の2時間20分台のペースで、第二集団は世界陸上選考記録の2時間25分台のペースでレースをすすめる。第二集団は「世界陸上」をめざして無理をせずレースを運んでいますね、という実況もあったが、そうは見えない。小崎はそもそも突っ込むタイプではないし、加納やワゴイはマラソン初心者である。単純に経験と実力の差だろう。初マラソンで、2時間20分のレースができるかどうかは、ただ単に目指しているところだけの問題ではない。たとえば、坂本が初マラソンで2時間21分を出したときは、皆そのレベルのタイムを出せるレベルにあることが分かっていたはずだ。

折り返しまでの、御堂筋に入る時点までは、楽にレースを運んでいるようだった。後ろの集団では、シモンなども遅れており、先頭の二人の好調さは伝わってくる。こういうレースは、どこでレースが動くか、動かそうとするか、それを見るのがマラソンの醍醐味だ。御堂筋南向きに入り、若干向かい風になったようで、少し動きが鈍る。折り返し北に向かうと多少持ち直すが、渋井・原ともに動きに軽さが失われてきて、体力が削られているのがわかる。

大阪城内のコースで、渋井はアップダウンがきつい様子がみられた。アルフィーのBGMで実況が入らないのはやむを得ないが、原が併走し、渋井を離すタイミングを待っているのがありあり。一般道に戻ったところで、いよいよレースに動きがあるか・・・というところで、まさかのCM!!おい、関西テレビ殿!よりによってここで!もう五分待てよ・・・

願いもむなしく中継が再開すると、すでに渋井は原から離されて戦意喪失していた。いや、これは納豆以上の謝罪ものっすよ。スポーツ中継では逃しちゃいけない瞬間ってあるでしょ。ボールゲームなら得点シーン。格闘技ならKO。マラソンならスパート。その瞬間が来そうなことが分からないなら、マラソン中継などやめていただきたいわ。

それはさておき、渋井が遅れた時点で第二集団は、小崎と加納。おそらく小崎には沿道からの指示が入ったのだろう。突然のペースアップで加納を置き去りにし、渋井を抜き去って二位に浮上。加納は小崎についていけなくもなさそうだったが、無理をせずに自分のペースを守る。渋井はけいれんでも起こしたか、まったく抵抗できずに加納にも置いていかれた。10℃前後の気温で湿度も低い、絶好のマラソン日和に、こんなことになってしまうのは、直前の体調不良、怪我もしくは栄養の調整ミス、レース中の給水ミスか。チームとしては、東京国際で土佐が調整ミスの高橋を葬ったのと、逆のパターンに陥ってしまった。

原だって、その後のペースは決して目を見張るものではなく、独走とはいえ5kmを17分30秒ぐらいのペースですすめる。数年前のシモンなら抜きにかかるぞ。それともまた2時間24分20秒で小波記録でも狙っていたのか。

世界陸上で勝負ができるような、力強さはまだ見ることはできなかったが、それでも、立派にトップでゴール。小崎の二位も立派、そして小崎を追い込んだ加納も立派。加納のスピードは、むしろ勝負の可能性を感じさせてくれた。

レースを振り返って、原が、大阪城でペースがずいぶん遅くなったような気がして行ってしまいました、という様なことを言っていた。やはり、自分から積極的に(主体的に)レースを作って、動かしたわけではないところに、もっと強くなってほしい、という希望はあるけど、今日のところは本命渋井の変調を感じ取って、気を逸せず前に出ただけでも、その勝負勘をだけでもよしとするべきか。あれだってもう少し遅れたら、小崎に食われてしまっていたかもしれない。

沢木氏もその辺のことを意識して、「マーク屋としての才能が開花」のような評価をしたのかもしれない。よくよく考えたら、レースを動かすことを我慢できる選手というのは、いつの間にか少なくなった気がする、かな。

そして、返す返すも、そのシーンをCMに充てた関西テレビさん。いやー、見たかったよ、このレースの一番の手に汗握るシーン。

残念でした。