10/25 日本シリーズ第四戦 日本ハムvs中日 たとえ安いドラマでも

阪神タイガースには「ベンチがアホやから負けた」と言って、そのまま引退に追い込まれた投手がいる。周りは、ネタにするが、ご本人がそれを得意げに語っているのは、見かけたことがない。

ワンプレーに対する思考時間が長く、その分監督の采配が大きく影響する、野球というスポーツにおいては、選手間の連携以上に、チームそのものの意思統一が欠かせない。従って、監督だけでなく、誰か特定の選手を、批判することはチーム戦略の遂行上大きな妨げになる。

日本ハムの金村投手に、シーズン中から相当なストレスがたまっていたことは、察することができる。まるで、成功事例のように日本ハムの北海道移転は語られているが、長期的な戦略に欠けた、思いつきに近い計画が、たまたま地元の熱狂で成功したように見えているだけだ。運が良かったともいえる。金村だけでなく、古くから日本ハムに在籍する選手の中には、そもそも北海道へチームが移転する事に対する説明もほとんどなされず、強引に計画を推進するフロントのやり方に、不信感を持っている人も多いという。移転前にチームを去ることのできた選手は幸せな方で、生活の糧を失うわけに行かず、なくなく家族を置いて単身赴任している選手も多い。西武ライオンズの長期的な北海道フランチャイズ計画を横取りして大もめにもめたことを棚に上げて、得意気に地元密着について語る日本ハム球団のフロント陣には、厚顔無恥という言葉がぴったりだ。

それは選手には関係のないことなので、これ以上は止めておく。

金村に話を戻すと、

ヒルマンベイブともいうべき、若手投手の台頭で、ローテーションも金村を中心には回っていかない。もちろん、シーズンを通して、決して素晴らしい投球を続けたわけでもなく、声高に「オレオレ」と叫ぶわけにはいかなかったろう。

だからこそ、せめてもの、プライド、もしかしたら契約上の到達点でもあったかもしれない、二桁勝利、を前に気合いが入っていたに違いない。ただ4回2/3で交代させられただけでは、シーズン終盤、大事な時に個人記録のことだけであそこまで監督批判(外国人差別的な内容まで!)をぶちまけることなどできないだろう。

パリーグのシーズン大詰めは、プレーオフを、何回、どのチームがどこで戦うかが、最後まで読めない、スリリングな展開だった。そして、そこに金村の力が必要なかった、という結果になってしまった。

第四戦でようやく先発機会が巡ってきた金村だったが、投球には、特筆すべき点はない、というより、毎回のようにピンチを招く、苦しいピッチングであった。中日打線も、第三戦では拙攻ではあるが良く振れて、ヒットは出ていた。打線は総じて上向きといえる。

中日の先発中田は、どちらかというと悪い出来。制球はいつもつかないのだが、ボールがほどよく散る時は勢いにまかせて打者を押し込める。しかし、この日は、ボールがはっきりしており、四死球で走者を塁に貯めてしまう、悪い方の中田だった。

中田は初回こそ、無失点だったが、3回、上位に再度回ってきた時は、通用しなかった。慎重にストライクを取りにいったところを、森本、田中に連続長打を浴びてしまって、先制点を献上。小笠原、セギノール死球を与えて、満塁、稲葉。さすがに、「ここで打ったらMVP」とでも頭をよぎったか、力んでしまい三振。新庄の三遊間ライナーは井端の好捕にあってしまい、続く稲田は日本シリーズクオリティになく三振。無死満塁では点が入らないとは良く言ったものだ。

5回表、中日は無死から9番井上が二塁打を放つ。絶好の形で、最悪の状態の1-2番。しかし、打てなくても、何でも出来るのが、中日のはず。そしてその通り、荒木は右打ちで走者を進めて、一死三塁。同点は固いはずなのだが・・・拙攻しなくてはいけないことになっているのか、井端は最悪のサードゴロ。ランナー動けず。二死三塁。

ここで、ヒルマン監督、マウンドへ。

監督批判のきっかけとなったのと同じ、あと一死というところでの、行動。

だが、前回は、三点差で、二死一二塁からベニーにヒットを打たれ、満塁となって今江、で交代だったのだ。1-0で、一死三塁、サードゴロで二死三塁で福留、では交代も、確認事項も何もないよ。

役者なだけだ。しかし、チームをのせるために、役者になるのも、監督の采配の一つだ。

金村は渾身の投球で福留から奪三振

金村の奪三振率は4を切る程度で、決して三振を多く取る投手ではない。今日もこれが2つ目だ。

それをこの場面で。渇を入れられた。気合いが入った。

なんとでも見出しがとぶだろう。感動が売れる。そんな気分だ。

そして、5回裏試合が決まった。中日は中田から石井にスイッチしてきた。三巡目は持たないだろう、と言う判断はやむを得ない。しかし、石井も持たなかった。小笠原二塁打セギノール四球。セギノールは軽くガッツポーズをしたようにも見えた。そして稲葉が、タイムリ二塁打で二点追加。初回の失敗が生きて力みもとれた良いバッティングだった。

中日には、もう跳ね返す力がない。

継投も石井-鈴木。もう普通ではなく、監督の混迷がうかがえる。

日本ハムも、金村を5回で替えてきたので、盤石の継投には少し足りない。どう補うかがポイントだったが、金村の後を受けたトーマスを早めに見切り、建山にスイッチ。中日は満塁まで追い込み、井上の大飛球(ファール)を打たれるが、結局とらえきれず無失点。

建山は7回も走者を出したが、その後を、岡島がこれまた満塁にまでされるが結局抑えた。

中日は、第三戦の3併殺に続き、第四戦は、12残塁

ここまで、守備のミスは減りつつあり、試合運びはそれなりにらしいものを見せるのだが、継投がおかしい。

しかし、「仮に」、第五戦で勝負が決まらなければ、多くの投手が既に登場し、調子もつかめている状況は、中日にとって有利にはたらくとも考えられる。単に、託せる中継ぎ陣がいない、という結果であったのならば、もう第五戦で試合は決まるだろう。

試合後のお立ち台は・・・金村。

インタビュアの問いかけに応える前に、涙顔で、謝罪と感謝の気持ちを述べる金村。

彼が辛い1ヶ月を送ったのは本当によく分かる。

しかしシナリオにしてはできすぎだ。

だが、伝える側、見る側の、薄っぺらな感動を誘う美辞麗句がなくても、プレーする選手、そしてチームの、醸し出す雰囲気だけで、感動が伝わる。きっと伝わらないだろうという思いから、こうやってブログに記すことも憚られるが、それを見た人はよく伝わったと思う。

日本ハムには、優勝するための条件が整ってしまっている。それも、何となく日本一、ではない。数年後まで、いくつかの場面が語り継がれるであろう、日本一として。

その場面が、三文芝居くさくても、一向に構わないではないか。

主役は、選手であり、我々は幸せにもそれを見られる、そういう立場なのだから。素直に感じ取りたい。