10/22 日本シリーズ第二戦 中日vs日本ハム 悲しきスクリュー

15年ほど前まで名古屋に住んでいたが、そのころ既に山本昌はプレーしていた。

当時の名古屋は今のような中途半端なおしゃれ感はなく、ナゴヤ球場は場末の雰囲気がプンプンであった。それは、地域の地方都市が東京化目指すのとは、ひと味違う、名古屋のプライドのような気がしていた。

スタンドの応援はエネルギッシュで、チームもスマートではなかった。野武士軍団、などと言われていた。そんな中、山本は、線の細い投手で、おいおい、こんなん取ってきて大丈夫か、というのが中日ファンの衆目の一致するところだった。

彼が劇的に変わったのは、アメリカに野球留学に行ってからである。なんだかとても長く野球留学に行っていた。しかし後にも先にも、数ヶ月であれほどドラスティックな成長を遂げた選手を、私は他に覚えていない。もっとも野球留学というのもバブルで太っ腹な話だが。

彼の変化は、スクリューボールの会得である。

アメリカに行ったと思ったら、帰ってきて、いきなり日本シリーズで投げたんじゃなかったか。五年目での突然の開花だ。その当時から、緩急で勝負するピッチングスタイルは変わっていない。それどころかトレーニング技術の向上か、得意のラジコンパワーか、直球の急速は増してさえいる。彼は緩急は使うが、勝負は本格派で、奪三振も多いのだ。その上、制球力は若いときより格段に上がった。

その日本シリーズから18年。山本に四度目の日本シリーズがやってきた。しかし、隠し球日本シリーズから、未だにシリーズで勝ち星はなく、そして一度も日本一になっていない。

四十歳になろうが、なんだろうが、期するものはあって当然だ。

初回、森本にえらく簡単にヒットを飛ばされた。谷繁のリードは、第一戦とほとんど変わらず外角が多いが、川上に比べると球の勢いでやはり見極めやすいのか。審判の判定も第一戦よりはるかに厳しい。

インコースの見せ球にスクリューとカーブを配することで、川上に慣れたハム打線を山本のペースに持ち込むことが重要だ。

一方のハムはその前に何とかしたい。田中がきっちり送ってクリーンアップへ回す。これは良い形だ。この場合別に点が取れなくたって良い、というぐらい良い形だ。両チームも何度も同じ形を作りに来るだろう。どちらがミスをするか、が鍵を握るし、選手の重圧になる。

日本ハムは点を取る体制を整えることに成功した。そして、セギノールがショート強襲タイムリーで日ハム先制。これは後ろに弾いてはいけない球だった。レフトの守備位置も謎だった。エラーはつかないが、昨日のいくつかの美技よりも、こういうミスをしないことの方が野手は大切だ。

その裏、井端は同点本塁打を放つ。テレビはしきりに先ほどのプレーを取り返す一打、とはやし立てたが、初回の井端のプレーはソロ本塁打一本で取り返せるプレーではない。

あのプレー一つで、この試合、重圧がかかり特に中日の選手にプレー精度が落ちる可能性がある。

中日はなんとか連打で得点して嫌な空気を払いたいが、二本目のヒットは四回の福留のソロアーチ。福留も日本シリーズでブレーキになってきた男なので、嬉しかったろうが、ガッツポーズをしすぎ。この辺り、個人的に相当嬉しいのと、チームが張りつめているのがうかがえた。もっとも中日ベンチは一年中暗いので、比べようがないが。

五回、日本ハムは新庄がヒットで出塁。鶴岡がすぐさま送る。これはヒルマンのオートマティズムなのかもしれないが、やはり解せない。DHがないことを忘れるのか?九番・投手のバッティングを計算してのことか?謎だ。

下位打線が山本昌を打てるはずもなく(だいたい阪神では七番以降から全く子供扱いだ)この回を無駄に終え、やはり裏に中日のチャンスがやってくる。井上・谷繁と連打で無死一二塁。日ハムバッテリーは谷繁が送ると思ったのか?淡泊な攻めだった。この辺が雑なのは若いせいもあるだろう。

山本昌は当然犠打の構え。初球バント。三塁側へ少し弱く、投手八木のダッシュはあまり良くない。が、取ってからが早かった。反転しサードへ投げ、間一髪アウト。

この指示を誰が出したのか分からないが、捕手鶴岡が出したようには見えなかった。ランナーであれば、暴走と好走は紙一重だが、この場合も八木の紙一重のスタンドプレーだったのではないか。だが、結果として、ファインプレーとなった。運

悪く、中日はバント失敗という形になってしまう。中日は重圧を払えず、日本ハムは期せずして不確実な好プレーで、流れをつかむ。

六回。山本昌は明らかに球威が落ちていた。独特の緊張感で体力の消耗が激しいのか。昨日の川上もそうだったが、シーズン中より早めにへばってくるようだ。一番森本は強い遊ゴロ。井端はまたもオロオロしたプレーで送球。次の田中も一二塁間抜けようかという当たり。ウッズが好プレーで止める。続く調子のでない小笠原にもフルカウントまで粘られたが、打ち取った。ここが替え時だった、というかよくこの回持った。

しかし七回、山本昌続投。

確かに、二枚腰の山本である。とらえられる、と思わせてからズバッと直球を投げ込んでくる。しかし、今日はそんな余力がなかった。

二試合かけて、谷繁のリードにも完全に慣れてしまっていた日ハム打線は先の回当たりから良い当たりを連発。この回は粘った稲葉の最後ボテボテの補ゴロを、谷繁が一塁悪送球。チーム全体の、プレーに対する萎縮と、捕手としての違和感が影響したのか。彼の送球ミスはあまりみない。新庄は、外角球を、らしいテキサスヒット。右打者にはほとんど何も効かなくなっている様子だ。続く鶴岡も粘る。昨日今日と、九番に向けての犠打の場面で打席慣れしていたら、と残念な思いで見ていたが、やはり最後は子供扱いで三振。

しかし二死からあと一人で、金子にタイムリーを浴びる。稲葉、新庄がかえって逆転。

この時の谷繁のブロックプレーが尋常ではなかった。とうていアウトにできるタイミングではないところで、走路をふさぐ完全ブロックである。あれでは今度中日側の大事なときに報復をされても文句が言えない。

新庄の運動能力で誰も怪我なく終わったプレーだが、そもそも谷繁はそんな野蛮なプレーをする選手ではない。これは、彼の状況判断能力が鈍っているんじゃないか。いや、やっと交代を告げた落合監督も、含めたチーム全体の状況判断がおかしいというか、パニックか。

もっとも今の中日の中継ぎ陣は、とても日本シリーズクオリティではない。継投にリスクが高いことも、山本を引っ張ってしまった原因だろう。タラレバは禁物だが、山本昌を六回で代えられれば、試合は違ったものになったのではないか。それでも、誰かが打たれただろうが・・・。

しかし、落合監督の「あそこで変えたら死んじゃう」というコメントは、あそこまで引っ張ったので生かせなかった、という反省だったように読めた。

中日はその後もバントに失敗し、セギノールに気持ちよくホームランを打たれるなど、まあ、ミスから完敗の典型的なゲームとなった。

それにしても中日の重圧は、シリーズ独特の緊張感とか試合の流れだけで語れるモノではないようだった。ナゴヤドームのスタンドは日本シリーズとは思えない、盛り上がりに欠けたものだったが、しかしそれでもシーズン中に比べれば人が入り、はるかに大きな声援が送られていた。敢えて言えば、中日の選手は、こうしたホームスタジアムでの歓声に慣れていない、それが原因か?。

むしろ、札幌ドームのブーイングの方が、彼らにとっては実力を発揮できるのかもしれない。

シリーズとしては一勝一敗でおもしろくなったが、個別の試合としては、もっと良い試合が見られることを、中日には期待している。今日の試合も、レベルの高い試合だからこそ、ミスが結果につながってしまったのだが、もっとぞくぞくするような試合が見れるような、期待感がある。

もっとも、中日がミスなく試合を運んだら、あっさり勝ってしまうのだろうが・・・