10/21 日本シリーズ第一戦 中日vs日本ハム 風見鶏

2006年の日本シリーズが始まった。

中日対日本ハム

数年前までであれば、対戦カードのマイナーぶりに世間のトーンは下がりっぱなしだったかと思う。巨人一極集中時代の終焉と、(それに伴う?)野球人気の相対的低下によって、かえって対戦カードのマイナーさは浮き彫りにならなくなってきている。

交流戦日本シリーズでの対戦にドラマ性を与えてくれるようになった。日本シリーズそのものを楽しむには、これでいい。

先発投手は川上とダルビッシュ

日本ハムは、大事な初戦で、ダルビッシュしか出せないのが、すでに限界がみえている感がある。

しかし立ち上がりは、川上の方が若く、青かった。力が入り、球が上ずり、逆玉が多い。アンパイアに助けられた面も多かった。

ダルビッシュは初回は完璧。直球の走りも良く、これは手が出ない、と思わせる立ち上がり。

だが、二回に入って、ガラリと様相が変わった。

川上は外・外の谷繁の要求にこたえる、外角低めの制球力が戻る。一方ダルビッシュは、インコースを有効に使っていた一回から一変し、先頭のウッズにまるで勝負を避けるかのような外一辺倒で、四球。

中日に、無死の走者を出すようなリードをする時点で、捕手鶴岡の、あるいはチームの中日対策が徹底されていないことを感じた。

ラジオの解説で矢野(阪神)が、「この場面は絶対四球はいけない、ソロホームランの方がまし」と言っていたのが、ずばり的中。森野のツーベースも外角。さらに、二回にして井上を敬遠して満塁策。

このあたりで、日本ハムの危険な兆候を感じる。

それは、「ペナントレースの続きの気分で臨んでいる」とでもいえるだろうか。

パリーグ終盤戦からプレーオフにかけて、一戦必勝、ガムシャラな戦法で戦ってきた。それは中日もそうだ。その戦法のまま臨もうとしているチームと、シリーズは別物、として臨んできたチームの違いを感じた。

パリーグが、プレーオフ導入後、実戦感覚などの面でセリーグのチームに対して、アドバンテージを持って日本シリーズに臨んでいたことは間違いない。だが、西武しかり、ロッテしかり、日本シリーズは万全の対策をして臨んできた。しかし、日本ハムにはそれがないのではないか?と二回の満塁策で、少し思いはじめた。

今年、四月のシーズン開幕時から、総力戦で臨んだ読売があっという間に沈んだのは、けが人のせいだけではない。シーズンを通して戦う準備ができていなかったのだ。

日本ハムのとった戦法は、始まったばかりのシーズンの開幕戦で、もう後がない戦い方をとってしまった、という点で痛恨だ、と私は思った。シリーズは、今始まったのだ。プレーオフとも交流戦とも違うのだ。始まったばかりのシリーズでの、消極的な試合運びで、チームは、選手は、奮い立つだろうか。

しかもこの場面では、確率的に、合理的な戦法とさえ思えない。谷繁の四球数は打席数が少ないにも関わらずリーグ4位の71である。1点がどうしてもやりたくないなら押し出しのリスクを負う必要はない。それに川上のバッティングも、悪くない。一死三塁走者で回されたら、犠飛だって打てる。

併殺が取りやすくなるという面はあるが、それ自体が、一点さえやれない、という思考の表れだ。井上を内野ゴロに打ち取れば、一点だけで、二死三塁で谷繁である。カウントを悪くしても、最悪四球に逃げられる。

だがその一点が嫌なんだな。だからウッズを歩かせてしまうんだもんな・・・

などと考えていると、ボール先行の四球目に谷繁がドカンと二点タイムリー。

ああ、決まったのかな。これで決まったらつまんないな。

だが、川上もやってくれた。

矢野のびびリードとネットでは命名されていたが、今日の谷繁も外角要求が多過ぎた。三回は川上も制球は安定せず、森本にヒット、四球をはさみつつ、セギノールにタイムリー、新庄に犠飛と、あっという間に追いつかれた。

その裏、今度はダルビッシュである。

ウッズがヒットで出塁。そして打席は森野。

阪神ファンの私は疑心暗鬼で、バントもあるかな、と思うが、やはり落合はそこまでしない。投ゴロ。

だが、ダルビッシュ君、何を思ったが、二塁をチラ見してしまい、オールセーフに。ウッズは結構走るのよ。

このあたりから、やはり、スコアラーからの情報が徹底されていない、日本ハムの状況が明らかになってくる。

井上のタイムリーで中日が再びリード。

川上はその後4回・5回・7回と三者凡退で抑える。6回も新庄の二塁打のみ。

球数が多くなりどうかな、と思われた8回も続投。正直、岩瀬につなぐ中継ぎ陣は、シーズン後半から状態が良くなかった。

だが、川上ももう限界。この回はセギノールにヒットを浴びたが、小笠原と新庄の打球を井端がファインプレーで止めてくれた。中日にはこのディフェンス力がある。

結局もう一点追加して最後は岩瀬。

4-2で中日勝利。

中日にとっても、川上を引っ張らざるを得ないなど、決して楽な展開ではない。しかし、井端の好プレーも含めた総合的なディフェンス力は、織り込み済みである。

落合監督が、「普通にプレーすれば普通に勝てる」というのは、「楽勝だ」ということでなく、個々の能力が発揮できなければ勝てない、ということの裏返しだ。

そうした意味で、今日、普通にプレーができなかったのは、おそらく谷繁と福留か。谷繁のリードは疑問も残ったが、川上の制球力を信じて、であれば明日以降は配球を替えてくるだろう。福留は力みが見られ、無安打。日本ハムは福留マークで、ウッズは勝負を避けたのかもしれない。

ダルビッシュは、三点目の後も、辛抱して良く投げた。しかし後の武田久の牽制悪送球もそうだが、ミスが結果につながってしまった。

もっとも、日本ハムにとっても、これも「普通」である。シーズン中もそれほど精度の高いプレーで勝ってきたわけではなく、何かが崩れた、という風情でもない。

しかし、チーム全体で、シリーズに臨む準備がおろそかな点は看過できない。チームを高揚させるような、戦略もとれなかった。

八回、小笠原の打球が井端に抑えられたとき、一塁にヘッドスライディングを見せた。個人のガッツでしか、チームを乗せられないのであれば、日本ハムに勝ち目はない。勢いづくのを待つ余裕はない。

逆に、中日には勝利に勢いなど必要ないのである。井端の見せた普通のプレーが、明日以降徹底できるか。谷繁は投手の力を引き出すリードができるか、福留は力を抜いて打席にたてるか。

中日が一試合勝った以上の、「大きな差」は初戦ではつかなかったはずである。

流れだけでは、片付けられないが、シリーズの神様は、まだどちらを向くかは決めていない。