ACL 準決勝第二戦 ガンバ大阪vs浦和 「拍子抜けの決勝進出」

終了のホイッスルが吹かれる前から、満員の観衆の見つめるピッチ内で、勝者と敗者は残酷なコントラストを見せた。

それは、2005年12月2日と、まさに正反対の姿だった。

明らかに異なるのは、あの時と違って、勝者はまだ何も勝ち取っていないこと。

試合前、闘志満々、かかり気味の西野監督のコメントを見る限り、不安がないでもなかったが、両チームの現状とメンバーを考えて、単体の試合としてガンバが負けるはずがない、という試合前の予想。現状の両チームの守備の不安定さを考えると、どちらも得点は挙げるだろうから、0-0や1-0はない。1-1でPK戦まで行った場合には決勝進出は厳しいよなあ、というのが考えられる唯一の悪いシナリオだった。まあ、結局2点獲る、という分かりやすい目的だったわけだ。2点差で勝つ、などという3年前のあの時よりも、ずっと現実的な目標だ。

はてさて、西野監督がかかり気味だったのは試合前日まで。当日はいつも通りの固定メンバー。先日の磐田戦で機能しなかった、ルーカス・ロニーのコンビをこの日も使ってきた。そして左SBも下平ではなく安田。中盤の四人衆、最終ラインの残り三人、いつも通りの固定メンバーでした。ただし、いつもよりもルーカス・ロニーのラインが縦で、4-4-1-1あるいは4-2-3-1とでもいうような、布陣に近い。それはルーカスのスタイルでそうなってしまっただけだと思うが・・・

発言がかかり気味だった西野監督に対して、プレーがかかり気味だったのは、浦和の方。山田、阿部あたりのチェックは厳しく、トップ下のポンテに対して両サイドに開いたMF二人と、トップの二人が近くに位置ししつこくプレスに行く。10分過ぎからはセカンドボールが奪えず、ガンバのボール回しは窮屈さを強いられる。ストロングポイントを消しに来る浦和だが、週末にあった神戸戦のように足が止まるんじゃないかな。

ガンバサイドとしては、この日は、週末の試合に比べると、ルーカスでボールがだいぶおさまるようになり、出しどころとしては遠藤を経由せず二川や橋本・明神の攻撃参加を呼び込む形を狙っている。ただ両ボランチはSB(安田・加地)の上がりとは連動せず、浦和のロングボールに対するバランスを重視。少し慎重な印象がする。

浦和にクロスをポンポン上げられるが、上げるサイドのウィングとトップの距離が近いので、出し場所が逆サイドに限られており、さすがのガンバCBもこれなら右往左往する必要はない。相手の決定力のなさにも期待して、安心してみていた。ただし、決定力はなくとも、二人とも守備でいい汗をかいているため、やはりやっかいなことに違いはない。セットプレーの場面では、ポンテの調子が今ひとつのようだったので、さほどの脅威はなく、むしろ田中マルクス、上がってこい、こい、という期待感。まあ、放送局が彼を頻繁に抜くから、目立つんだろうけど。

しかし36分。そのセットプレーがいったんクリアされた後、拾われて再び放り込まれたときに、失点をしてしまった。放り込みに対してセンターで競ったのが加地、頭でクリアしきれず、ポストプレーのように落としたボールを高原にさらわれてゴール。まあ、クリアミスといってしまうのは簡単だけど、セットプレーのあとCBが簡単にゴール前を開けすぎた。あのプレーの時に加地しかいなかったことの方が問題。浦和からしたら、シンプルな攻撃を続けて、ようやく実を結んだ形。むしろガンバの守備に穴ができるのを待った浦和の忍耐力に分があったと言うことだろう。

それよりも失点後、完全に崩されたシーンの方が危なかったが、フィニッシュ精度が低く、事なきを得た。前半は0-1で折り返し。

2点をとる、というプランは変わらず、明確になったわけだが、浦和はきっと例によって引いてくるだろうなあ。他のチームは「浦和は引いてからの方が崩しやすい」なんて威勢の良いこと言ってるけど、ガンバは第一戦でもガッチリ守り続けられたもんなあ・・・(心の声)

ハーフタイムで、ロニーに変えて佐々木を投入。これは正確に言うと4-5-1-0です。ルーカスでためて、二列目以降の選手が、どれだけ飛び込んでいくか、それにかかってきます。

佐々木は、ガンバの中では良い意味で非常に異質。ドリブルでの切り込み、クロスの精度、シュート意識、判断のスピード、偏執的なまでのパス交換に、一人だけ彼のような選手がいるだけで、ものすごい多彩な攻撃バリエーションがあるように感じる。そこには、いつも右サイドで一人で発電している加地とのタッグによる相乗効果もある。佐々木の投入で、浦和は阿部が対応に来たようだったが、選手交代がなく、ボランチが一人いなくなっただけの様な印象。余計に佐々木が生きた。佐々木のクロスから得たCK。ガンバサポが陣取る唯一のコーナーから遠藤が上げたクロスは、シリアでもお目にかかった山口のドンピシャヘッドを生み、同点。後半6分。

おそらく、試合だったのは、ここまでだろう。

浦和のFWの二人は、前半からの献身的な守備で消耗し、前線での迫力を失っていたし、その他中盤の数人の選手は、特に劇的に運動量が落ちた。他チームのことなので、名前は控えたいけど、いったいどうしたのかしら・・・

ガンバからしたら、自由にボールを回して、好きなことができた。しかし、興味深いゲームからはほど遠い、壊れたゲームになってしまった。

サイドからの突破、パス交換からの崩し、いつ点が入ってもおかしくないし、時間はたっぷり(60分以上!)ある。印象的なシーンは、中央から二川、遠藤、ルーカスとワンタッチでボールを浮かしながら回して、ゴール前フリーの状態を作ったが、フィニッシュが橋本で落胆。しかし、中盤のケアが全く必要ないくらい、相手の形は崩壊していたので、橋本、明神の攻撃参加が頻発。スピード突破も含めて、相手の個人能力ではもう対応できていない。

安田を下げて山崎を投入した直後にそれが生きた。1点目と同じコーナーからのCKを明神と競った坪井がクリアしきれずボールはゴールへ。オウンゴールかと思ったけど、明神のゴールということだった。本当かいな。しかしこれで1-2。

山崎の投入で、ガンバはまた1トップ(どうしても2トップとは思いたくない)になり攻撃が活性化。トップ下的な働きに終始するロニーに変わって遠藤が左に開き気味か。そして、3点目はその遠藤が決めた。ルーカスから橋本を経由して遠藤に渡ったボールを、フリーの遠藤が左からズドンと決めて1-3。まだ15分ある。

時間を使わせたらお手のもの。相手もそれほど積極的に来るわけでもなく、ガンバもさすがにゴールへとそれほど向かっていくでもなく、着々と時間を浪費していく。ロスタイムに投入された播戸が直後に決定的な抜けだしを見せるが、なにやらハンドでカードをもらっていた。今日も播戸は復活ゴールならず。で、タイムアップ。

前半飛ばし気味にゲームをすすめた浦和が、後半予定通り失速してしまって、なんだか見応えのない、味気ないゲームとなってしまった。あれが向こうの戦略だったのなら、やむを得ないけど。普通にやってもパス回しに付き合わされて疲弊するのに。

結局、ガンバのプレーが良かった、というよりプランに乏しく、壊れてしまったゲームを、ガンバがきっちり回収した、ということが正直なところ。次のリーグ戦、清水戦で同じことができると思ってはいけない。

もちろん、勝ち上がって、決勝戦に進出したことは、素直に喜びたい。

しかし、このACLのステータスを高めたのは、いうまでもなく浦和だ。そのことに感謝し、改めて昨年のチャンピオンに敬意を示したい。そういう意味で、埼玉スタジアムで、彼らにブーイングがなかったことは、救われた気持ちがした。

選手の採点を追記します。

藤ヶ谷:セービングは悪くないが、DFとの連係が良くない。失点シーンもそう。後ろからコントロールする気迫が欲しかった。ロングボールに一瞬オロッとするのは、あきらめてます。(できました)

安田:サイドを自由にプレーしていたが、相手のおかげによる所が大きい。決定的なシーンはなく、まだ復帰途上。ニューヒーロー賞&MVPから一年ですよ。こんなもんじゃないと信じて。(もう少し)

中澤:やんちゃなソウタ君が全開でした。浦和が君を過剰に意識したおかげで、サトシのドンぴしゃヘッドが生まれたのではないかしら。もう少し藤ヶ谷との連携も深めないと、他のチームには間を狙われますよ。(よくできました)

山口:ヤットからの赤いイヤ青い糸が見えました。ガンバサポの目の前で逆襲開始できるチャンスを待っていたんでしょうか。気をつけていても止められない、サトシヘッドに第二のACL男誕生を感じました。(よくできました)

加地:失点シーンのミスには、一瞬怒声がでましたが、君一人のせいではない。取り返すに十分なサイドの往復、クロス、シュートの嵐、そして3バックもこなしてくれました。それにしても佐々木が入ると水を得た魚ですね。(よくできました)

明神:ポンテの出来が悪いのか、明神の出来が良いのか。さほど手のかからない中盤を置き去りにしてよく攻撃参加していた。あのゴール自体は「運」かもしれないが、転がり込んできた訳ではなく、その努力が実ったといえるだろう。(よくできました)

橋本:明神同様、中盤を置き去りにして、何度も華麗なパス交換に参加。シュートが入らないのもガンバスタイルの一環ですね?本当に今年はノーゴールで終えるつもりのようですね・・・ボランチとしての仕事は100点。(よくできました)

遠藤:鬼神でした。前半は相手を消耗させるパス交換、後半は相手を混乱させるポジション交換。CKも、三点目のゴールに至るパス交換も、無駄な修飾がなかった。松井や小野に彼の工芸美的精神を伝授してやりたい。(よくできました)

二川:不調の中、先発起用が続いているが、久々にガンバの指令塔らしいプレーを見せてくれた。ロニーとの相性が良くなるのが先か、過労で倒れるのが先か・・・(できました)

ロニー:展開もあって前半で交代。プレーはそれほど悪くなかったけど、ゴールの匂いは嗅げず。ルーカスを見るより、二川を見た方が良いと思うよ。(できました)

ルーカス:確かに君がいるとボールのタメはできる。ただ、もともと遅効の多いガンバで、これ以上トーンダウンさせる必要性がない時もある。佐々木が入って俄然生きるようになった。もっとも、三点目は早いパス交換で絡んだんだけど・・・(もう少し)

佐々木:最高でした。今のガンバの前進力は君にかかっている。いつまでもオプション扱いしている監督、どうかと思いますよ。もはや君は宝物です。切り札扱いで逃げられたら、今度こそ監督を許さない。(よくできました)

山崎:ルーカスとの相性は、ロニーよりよかった。三点目、DFを引きつけて遠藤をフリーにした功績は大きい。しかも、逆サイドへのシュートだったら、押し込める位置に詰めていた。結果は出なかったけど、まさに立役者。(よくできました)

播戸:ロスタイム、押し込めれば、一気に復調気配だったんだけど。ますます、負のスパイラルに入らないように。2005年、優勝時のアラウージョのように、大事なところでの爆発を信じています。(もう少し)

監督:今日は冴え渡っていました。西野コールも納得。でも調子に乗らないでくださいね。でも、中盤四人固定はもうやめましょうよ。次節対清水で、ついに呪縛から外れます。シュウ(倉田)かな、チン(寺田)かな、武井かな。みんなワクワクしています。(よくできました)