ACL 準決勝第一戦 ガンバ大阪vs浦和 「世の中」の盛り上がりと「観客席」のざわめき

 ACLという大会は、社会的にはなんだかすごく「色もの」扱いされている。いわく、中東でこんな挑発をされたとか、おかしな判定だとか、サポーターがラマダンで声が出ないとか、なにやら、Jクラブのおもしろ珍道中を語るコーナーとして捉えられているのか。あるいは、クラブW杯という存在に対する違和感が拭い去れないからか。

 日本国内でメジャーな扱いをされていく上で、日本勢対決となった準決勝は、分かりやすくACLの意義や重要性を示す格好の試合である。もちろん、プレーでもサポーターでも圧倒するディフェンディングチャンピオンの浦和が、ガンバ大阪というおこぼれ出場組の挑戦を受ける、というステレオタイプの構図を打ち出して、である。卑下しすぎかもしれないが、妥当な表現ではないか。

 構図が分かりやすいものの、事前に国内でのたいした盛り上がりはなかった。相手がガンバというのは、浦和の勝ち上がりにとって、大きな障害になはならない、というとらえ方がひとつ。そして無理から盛り上げようとすると、話題が明るくない。今年、ガンバから発信される社会的にメジャーなニュースは、さいたまでの騒動と、遠藤の五輪辞退、ぐらいだろう。ビッグクラブの浦和と比べると、ニュースソースの重要性に欠ける。盛り上がりにくい構造を作っている。

 はてさて、監督も選手も、浦和を強く意識するガンバに対して、浦和はあくまでOne of Themという臨み方。移動が少なくて良かった、は本音だろう。どちらも週末の試合を経ての、水曜の試合となった。

***********************************

 浦和が、攻守のキーマンである田中マルクスを欠くことになり、期待していたガンバの1トップ構想は頓挫。山崎と播戸の2トップは、試合アタマからは初の組み合わせ。ガンバも安田、ルーカスを欠く現状では、相手DFの布陣に対して、打てる手は少ない。人に強い浦和守備陣に対して、ロニーを外したのは、正解だろう。

ガンバのGKは鹿島戦途中退場した藤ヶ谷がまさかの無事復帰。DFは、中澤、山口のCBに下平、加地のSB、中盤は、橋本、明神のボランチで、二川、遠藤が前目。浦和の守備を崩したい、という、監督の意地だろうが、準決勝まで勝ち上がっているのでACLに関しては、もはやとやかく言えない。相手が嫌がるやり方で、好きにやってちょうだい。しかし、いつかは、と予想は出来たが、助っ人が先発に名を連ねなかったことに、客席では最初のとまどいの色が。

 両チームとも、気合いの入った激しいプレーだが、観客席の盛り上がりとは対照的に、プレーする選手達は努めて冷静に見える。無言での殴り合いのような、息詰まる試合の入り。

 15分過ぎまでは、ガンバの方がゴール前に迫るケースが多いものの、中盤を制している、とまでは言えない。浦和はここのところリーグ戦での失点が多いこと、に加えて田中マルクスが欠場していることで、個人での突破以外は、自陣で決定機を消すことを優先しているよう。ガンバは崩しきれずに、最終ラインを残したまま、やや強引にシュートに持って行く。もちろん、シュート意識の少ないポゼッションは浦和には通用しないので、危機管理としてはよい。播戸の反転シュートは阿部にブロックされ、二川のシュートはGKまで到達するが、都築の弾いたボールに誰も詰めることができない。

 20分過ぎて、ここ最近なかったような、行けるんじゃないか感が、じわじわと広がってくる。なぜか。下平の左サイドから、決定的なシーンを作られて悲鳴を上げる、というお約束が今日はないから。どちらかというと、下平のクロスを警戒していただいているよう。そう、そういえば初物に弱い浦和。去年もナビスコで倉田がチンチンにしてくれたっけ。

 下平に手がかからないおかげで、ダブルボランチがポンテに集中できるので、安心。

 などと、見ている方の緊張感が解けた瞬間、逆の右サイドを突破されて、クロスを上げられて、明神がクリアしたのかと思ったらボールが細貝の前にこぼれて、何の迷いもなくゴールに突き刺された。目の前であまりにもあっさり繰り広げられた失点劇。

 おお、そうだこれが浦和だ。そして、がっつり守られて、カウンター食らって、最後一点奪って追いつけず1-2。ああ、最悪・・・。必要以上にネガティブな妄想のゴール裏(一人か?)。

 前半はその後、ポゼッションは続けるが、到底浦和ゴールに迫るような雰囲気ではなく、シュートはFKも含めて2本。予定通り、「がっつり」守られて前半終了。

***********************************

ハーフタイムの競技場は、惨敗でもしているような雰囲気。下を向くな、とか声が飛んでいる。はてさて、後半開始時に交代なし。これ以上の失点は避けたい、攻撃の形は悪くない、という、いつもの弱気と強気の交錯した監督の気持ちが伝わってきて、客席にさざ波のようなざわめきが・・・。

そうした応援席の暗い気分とは無関係に、後半開始早々、遠藤のFKから、橋本がミドル(ゴール届かず)、さらにこぼれ球に山崎が反応(オフサイド)、加地の突破からCK、遠藤のスルーパスに橋本が反応してシュートが弾かれCK、などと攻め続ける。

 対して浦和の選手たちは高い守備意識で、ドン引き。まあ、相変わらずのポゼッション「させられてる」状態か・・・と思いきや、なかなかのシュート意識で、圧力をかける時間帯が続く。明神のミドル、加地のシュート、さすがの集中力で跳ね返されつづけるものの、相手のラインは下がりっぱなしとなり、久々の「超攻撃」で失点の可能性を感じない。

このまま守り通されるのか、ガンバが手を変え品を変えて、ゴールに迫れるのか。後半9分に二川を下げて佐々木を投入。佐々木は、いつものような、開いてクロスばかりではなく、中に切り込むプレーも多く、器用なスピードスターぶりを見せてくれる。

 後半15分には、連動して播戸が頭であわせてゴール!!と思ったら、ノーゴールの判定。さすがにオフサイドじゃないだろ、線審も旗挙げてないじゃん、と大混乱のゴール裏を落ち着かせたのは、枠を無情に外れるシーンのリプレイ。

 ところでこの辺りから気になったのが、都築のフィードの不安定さ。シュートへの反応はしっかりしているが、キックが低く短くて、ガンバの選手が労せずに、ボールを獲ったり、直接ラインを割るボールが多い。ゴール裏からのブーイングは、いつも通りなのだが、チラチラとゴール裏を気にするのも、不思議。知り合いでもいたのか?都築在籍時とは違う声援の大きさにとまどっているのか?ゴール裏もブーイング・歓声から徐々に心配の声が上がり始める。「いや、あれは都築なりの優しさだ」

 バイタルエリアで、プレッシャーをかけ続け、ガンバサポはチャンスに絶叫、浦和サポはブーイングの時間帯が続く。飛ぶように時間は過ぎる。浦和は完全に足が止まってしまったが、エンゲルス監督には交代を打つ気はないようだ。

 後半20分、加地が突破して浦和が戻り切れてないゴール前に絶妙な・・・クロスは上がらず、空の星に。

 そのままゴール右で倒れた加地からすぐに×サインが出る。代わって入るのは、寺田か?ロニーか?

 ・・・なんと安田が出てきた。んーと、安田が二川の位置に入って、佐々木のポジションを右か?客席に広がる混乱のざわめき。

 そんな思いと裏腹に安田はどうも右サイドバックに入った模様。まあ、上がりっぱなしなので仕事はサイドハーフか。

 山崎がゴール前、DFに抑えられながらシュートや潰れ役になりボールを預けたり、奮闘するも、シュートは飛べどもゴールならず。そして後半34分、ついにミネイロが万博に登場!山崎のポジションにスタスタと走っていく姿に、笑いとざわめきとを含んだ大歓声が。まさか日本に来てFWとして開花、みんなヴェルディ戦を見て知っているのね。

 さて、まさかミネイロの動きに翻弄されたわけではないだろうが、ゴール前、播戸を不用意に倒した相馬のプレーで主審が笛を吹きPKゲット。さほど悪質ではないが、エリア内での決定機妨害ってことだろう。前半に一枚イエローもらった相馬にとっては、一瞬肝を冷やしただろう。

 

 PKは遠藤が何のためらいもなく決めて同点。エジミウソン、イライラするのは良いけど、芝を荒らすな。都築に怒られるぞ。

 さて、その後、審判もすこし冷静さを欠いたか、カードが乱発される。ミネイロのスピードに対応できずに倒れた浦和の選手ではなく、ミネイロにイエロー。また、あまり人に激しく行かない下平が、相手のスピードに対応できず激突してイエロー。挙げ句、都築の遅延行為にイエロー。

 ロスタイム、ミネイロへのボールで何度か夢を見るも、逆転まではいたらず。

 試合中何度も起こった客席のざわめきは、ゴール裏だけでなく、ガンバの試合をいつも気にしているコアなサポーターが増えていることを実感させてくれた。それは、残念ながら大歓声には変わらなかったけれど、充分な健闘を讃える、そして次戦へ期待する拍手が競技場には響いた。

***********************************

 1-1は、今日の出来から言って、どちらにとってもさほど不当な結果ではない、と思う。次戦に向けても、おおきなアドバンテージはつけられずに済んだ。二戦目ホームはの有意点は、スコアレスドローしかないのだから、勝つことを考える方が浦和にとってもずっと現実的。むしろ、勝負は180分、ということを、本気で分かっていたのなら、逃げ切られずに、追いついてセカンドクオーターを終えたというのは、ガンバにとって非常に大きい。充分な勢いを持って、サードクオーターに臨める。

 ただ、相手の布陣が変わることは、むしろ浦和にとってポジティブかもしれない。都築の不安定さが消え、相馬細貝を変えるついでにFW布陣も変えて、梅崎やら日本生まれの方の田中やらが出てこられると、今日のパフォーマンスよりはずっと脅威だし、もちろん田中マルクスも次戦は復帰してくるだろう。

この試合、きっとスポーツ新聞では数行の記事にしかならないだろうが、BSで見た人には、ACLと言う舞台でJクラブ同士の対戦でこれだけ楽しめるんだ、というポテンシャルは感じてもらえたんではないだろうか。

播戸の言う「歴史を作っていく」という事実。盛り上がらないのは、まだガンバの役不足。昨年は浦和は彼らのやり方で、ACL王者の称号を勝ち取り、今年もそのスタイルを見せつけている。

 対する挑戦者は、挑戦者たるスタイルを示すことができたか?最初の90分は、充分見せてくれた。もう90分。続けることができれば、勝敗にかかわらず、拍手を送ることができる。「歴史」に何かを刻むことができる。ただ勝つだけでは、盛り上がらないまま、決勝への道が開くだけだ。

播戸が、あるいは監督が、「世の中」を意識して、発言しているのであれば、それはプレースタイルにこだわってタイトルを失う事に、つながるかもしれない。サポーターとして、それを受け入れられるかどうか、意見は様々だろう。

私は、ガンバのスタイルで、圧倒して、勝ち進んでもらいたい。

きっと両立できると、信じている。

願わくはまず、「あの浦和」が負けた、という驚きを世の中に伝えたいものだ。万博のざわめきを発信源にして。

***********************************

最後に採点

藤ヶ谷:危ないシーンはほとんどなく、失点も相手を褒めるべき。わずか三日で無理して復帰する必要があったのかどうかは別にして。(よくできました)

下平:イエローカードは、君の成長の証か、偶然か。今日は危ないシーンも、良いクロスも少なかった。相手アウェイでは、君のサイドから来られるぞ。安田とのオプションを高いレベルで期待したい(できました)

山口:今日はパス供給源が完璧に抑えられたのでCBとしての仕事の必要性が少ない日でした。ボランチとの連係を含めて合格点でしょう。(よくできました)

中澤:エジミウソンをいらつかせるのに充分な働き。本職だけなら問題なし。ゴール前頭でのシュートはフリーなように見えたけど・・・見えないプレッシャーを受けたのでしょうか。(できました)

加地:大事に至らず良かった。いつも以上に、プレーの激しさと豊富な運動量を示してくれた。佐々木の投入が燃料投下になってハッスルしすぎたのかも。(よくできました)

明神:守備ではポンテを完璧に抑えた。攻撃でも頻繁にチャンスに顔を出した。シュート精度の低さは仕方ないが、その位置取りの良さが逆に恨めしくなった。次、頼みます(よくできました)

橋本:シュートのへぼさはやむを得ない。無駄にポリバレントさせなかったのは、今日の監督の冴えてたところ。本当によく水を運んでくれてました。(よくできました)

遠藤:ここ数試合シュート意識が本当に高い。シュート自体はへっぽこで可能性を感じないが、君にパス以外の選択肢があるだけで、相手は困るということ。存在の大きさが増す一方で、もはや欠くことができない、という依存の恐怖を感じるほど。もうどこも行かないで。(よくできました)

二川:足の状態がよほど悪いのか、播戸への仲良しパスも今日はなし。連係はさすがだが、決定的な仕事を導けず。相手の注意を分散させたことは認めるが、次は通用しない。(もう少し)

播戸:山崎と役割を変えながら、ゴール前に迫った。動きは悪くなかったが、やはり、決めてナンボの職業。後半の幻ゴール、線審の旗がないのを見ただけで喜んだ我々を責めないで。もう猶予期間は過ぎているので厳しく(もう少し)

山崎:ACL男、今日も活躍したが、ゴールはならず。播戸とのコンビは、浦和と鹿島以外なら効くかもね。しっかり対応されている気もするが、次戦頼みます(できました)

佐々木:縦への突破、クロス、中でのターゲット、何でもやってくれました。二川との対比もあってキラキラ輝いて見えました。もっと長時間みたかった(よくできました)

安田: PKを誘ったのは君のパスからだが、それ以外、万博の空気となっていた。慣れない右サイド、ということを差し引いても、実戦経験以上のなにも見いだせない。もちろん次以降に生かしてくださいね。下平に安穏とされては困ります(もう少し)

ミネイロ:カードは余計だったけど、日本での職場が見つかってよかったね。あと二ヶ月だと思うと遅きに失したような気もするけど・・・このままゴールゲットまでしたら、よそのチームが拾ってくれるかもよ!?(よくできました)

監督:この大一番、流れを的確に変える効果的な交代の連続はみごとでした。しかもアクシデント含みで。ただあまり「かかり気味」になるとポカやっちゃうので、気をつけてくださいね。特にスタートのメンバー・慎重に。(よくできました)