G大阪vs柏、東京~「ガンバらしいサッカー」の考察

サッカーには相手がある。

中断期間に、記事にしなかった観戦記を見返して、ガンバのスタイルを考えてみました。

タイトルを書いてみて、大仰になってしまったので、前もって言っておきます。私の考える「ガンバらしいサッカー」ではなく、西野監督の多用するフレーズについての考察です。

5/19、ガンバvs柏戦を万博で観戦。ガンバはメンバーを欠いていることもあり、苦戦を覚悟して行ったが、意外なほどあっさりと勝負はついてしまった。しかしそう思ったのも、帰宅してTV放送を確認してから。現地では、どうもすっきりしない思いで90分を過ごした。スタンドでの観戦が、エンターテインメント性が高いことは実感する一方で、試合を客観的に観るのは難しいな、と実感した。記者席でもないからメモも取れないし。

まずは試合開始前。代表合宿で体調を崩して帰ってきた安田の先発出場になぜ、の疑問。監督古巣の柏相手だと言うこと以外、ことさらにこの一戦に無理をする必要はないはず。橋本がうまく機能しなかったことから、信頼の置けるサイドバックがいないということか。

 

 次は試合開始後。雨が降っており体感温度もかなり低いのに、軒並み半袖なことになぜ。柏はしっかり全員長袖。好き嫌いもあるが、体温調節はパフォーマンス管理という意味でコンディションのスカウティングと報告が徹底されているのか心配。普段はスパイクについて、あれ?と思うことがあるが、チームとしてこの辺のきめ細やかさがないと、遠くに遠征に行ったときに差が出る(ACLのことを根に持っている)。

ゲームプランとしては、柏のプレスにどう対応するかということが焦点だった。西野監督がよく使うフレーズとして「相手どうこうよりガンバらしいサッカーをやって圧倒する」がある(これを言うと苦戦する傾向にあるが)が、少なくとも対柏戦にかぎっては、綿密にプランを練ってきた。

柏のプレスはシーズン当初のように効かなくなってきていたが、チームの狙いは変わっていない。戦略としては、相手ボールの出しどころを少なくして、奪ったら少ない手数でチャンスメイクするスタイルといえるだろう。単純なカウンター戦術よりも運動量とスピードが必要である反面、体力・判断力・連動性がそろっていないと機能しない。シーズン序盤のような勢いが見られなくなったのは、リーグ戦の疲労によるものが大きいと感じていたが、上位チーム相手に、モチベーションを上げてくる可能性もあった。また、西野監督はともかく明神と共にプレーした選手も多くいる訳だし。

ガンバとしては、戦いやすい相手でないことは確実だった。柏のプレス封じをどうするか、それが通常よりポゼッションを減らして、「相手にボールと自由度を与える」ことだったのだろうか。

試合開始直後は、なにやらいつもとのテンポの違いに(観る側が)とまどうが、レイソルの選手達の方がそれ以上にとまどっていた。テンポの悪い横パスやロングフィードに、チーム全体の連動性が感じられない。ガンバが割と人数を残して、しっかりとマークをしているので、飛び出しや裏への動きが封じられてしまっている。またフランサに決定的な仕事さえさせなければ、チャンスメイクにもつながらない。従って柏としては、勝点3をとるには、きわめて正攻法で崩しにかからざるを得なかった。

一方のガンバも、相手のプレスから逃げるだけでは勝てない。どうするんだろうか、というモヤモヤ感がスタジアムを包む。おそらく現地でのすっきりしない感はここから来ていたのだろう。

結局は、相手の中途半端なプレーにつけ込む形で、カウンター気味の得点を重ねた。1点目はマグノのスルーパスに反応したバレー、2点目は相手がうまく対応できずにスペースが生まれたところを二川がミドル。失点はフランサの決定的なパス一本による1点に抑えて勝った。

おそらく、ガンバにとっては、守備をがっちり固められるよりも、はるかに難敵であるという認識があったのだろうし、その対策としてとった戦術がはまった、といえる。

しかしTVでは伝わってこない、独特の、違和感に近いムードがスタジアムを支配していたのも事実である。柏のプレスを避けた、というと大げさだが、裏をかいたことは間違いなかろう。

6/23の対FC東京戦は、その裏返しのような試合であった。勝ち負けはともかく攻撃的に来ることが予想される東京をがっちり受けて立った。これも万博で観戦だが、TVで再放送を見ても、同じように感じられた。

ガンバは山口が警告の累積で出場停止であり、移籍してきた中澤が初スタメンであった。中澤そのもののプレーが悪かったわけではないと思うのだが、紙吹雪ではじまった試合開始直後からトップギアの東京が、スピードと連動性が抜群で、ガンバは引っ張られる形になってしまった。

山口ならバランスを保ちスペースを消すような修正ができたのかもしれないが、この日の東京のプレーはすばらしく、どのみち失点はしていただろう。相変わらずルーカスはパンチが効いていた。

10分にエリア左前付近からの鈴木のクロスに振られて福西がゴール。15分には同じような位置から、FKがクロスとなり今野がシュート、こぼれ球を鈴木に決められ2-0。混戦からボールを押し込むという、東京得意の形だ。全体的にプレーについて行けていない主審(デンマークからの研修の人だと思う)の判断の悪さが、この時間帯には東京に転んだ。

相手の攻撃陣に完全に置いて行かれているガンバのプレーに、スタジアムにはざわめきが起こる。しかし、打ち合いが覚悟の上のせいか、ガンバの攻撃陣に焦るところは見られない。橋本と中澤で守備の修正も行われ、東京の攻撃もトーンダウンしていく。

遠藤は足首のケガもあってやや控えめなプレー。バレーとマグノへの対応で東京守備陣がバイタルエリアにスペースを空けてしまったところを、二川がミドルシュートで追撃のゴール。二川がキープしたところでDFは三枚いたが、振り切った二川はもちろん、その意識を分散させたブラジルコンビの動きもさすがだった。

2-1で前半終了。ここ何戦かつづけて、前半リードを許すか、点が奪えないゲームが続いていたが、この日もそういった流れではある。後半の播戸・家長投入でリズムを代えて、流れをつかむという戦略もそろそろ相手に対応されるのではないか、この日はどうするのかと注目。

予想に反して、選手交代はなし。東京がやり方を変えてこないのであれば、点の取り合いに持ち込める、という手応えは確かにあるが、果たして。

後半開始からは、ガンバ祭りとなってしまった。

後半4分マグノがシュート。これは防がれるが、そのセカンドボールを奪って、二川がミドル。キーパーが弾いたボールを東京DFが対処できずに、マグノへ献上。押し込んで同点。マグノの久々ゴールに、バック宙のパフォーマンスで、スタジアムの興奮は絶頂に。

後半5分にはバレーも強烈なシュート。東京DFは動きが単調になってしまい、対応できない。修正する時間を与えずに、後半8分、マグノがゴール前へ持ち込み、DFが仲良く揃ったところで、左フリーの橋本へパスを出し、あっさり逆転ゴールが生まれる。

そもそも東京は守れるチームではないのだから、仕方がないとはいえ、攻撃の糸口が見えないまま攻められ続ければ、失点を重ねるだけ。その辺、原監督は機を見るに長けており、川口に変えて石川、伊野波に変えて栗沢を投入してくる。前線でスピード突破を仕掛けて、相手を少し釘付けにしないと、ガンバの分厚い攻撃を仕掛けられるだけだから、投入意図は間違っていない。この時点では、まだ勝負がどう転ぶかは不明だった。昨年のアウェー戦ではわずか7分で痛快に逆転されている。

しかしその後も、ガンバの両サイドが全く苦労せず、ズカズカ上がりつづける時間帯が続き、これは東京としては手の打ちようがないゲームとなってくる。運動量が激減してきたのは、スタミナの問題ではなく、集中力の問題のようだった。

後半25分にバレーが痛んでしまい、播戸が投入されるが、これが攻撃面では絶妙のタイミングに写る。バレーよりも動きで攪乱することができる播戸が入り、東京は壊滅。投入即のボールタッチで、ドリブル突破してシュート。これが決まって、4-2。

播戸は33分にもDFを置き去りにして惜しいシュートを放つ。そして、34分には加地の珍しいドンピシャクロスに播戸が合わせて5点目。ゴールのたびに上がっていた紙吹雪ももう品切れの様子。

とにかく、播戸と東京DFがそれぞれ違う意味で切れていて、後半38分には、DFと1対1に持ち込んだ上で、左フリーのマグノにラストパス。きっちりマグノが決めて6-2。このスコアで試合終了。

これが、ガンバだ、で良いのかどうか分からない。しかし、東京はガンバ相手に自分たちのサッカーを変えてこなかった。だから、ガンバは自由に自分たちのサッカーができた。これも相手なりに、プレースタイルを変えているんだと、理解できる。

少なくとも今シーズン、「ガンバのサッカー」というフレーズは、たぶん監督のブラフなんだと、最近思いだした。それは「超攻撃」というコピーと同じで、実態ではなく、相手に与える幻想が重要なんだと。

もちろん、それを実行可能だからこそ、相手が幻想を抱くわけで、実際にデータも内容も「攻撃」こそガンバだ、と思わせるに充分である。

一方で、圧倒的なボールポゼッションと流れるパスワーク、というステレオタイプなガンバのスタイルに対しする、相手の準備(戦略)があるわけで、それに真っ向勝負することだけが「ガンバらしさ」ではないのだと、思いたい。

思い出してほしい。昨年度終盤は、甲府、静岡、東京、福岡、浦和と、アウェーで連続して、硬直した戦いで星を落としている。柏戦のように、相手のプレスに無理につきあわず、うまくかわす戦い方も学んだ、というべきだろう。

でも、西野監督は、柔軟な頑固な選手起用をする反面、柔軟な対応が可能なタイプなのだから、きっと今年はできるはず。

「ガンバらしいサッカー」が。