5/23 欧州CL決勝 バランスを保ったまま

CL決勝はリバプールACミランの対戦。二年前と同じ対戦、前回は3-3ドローで、PK戦の末リバプールが勝利した。私はと言うとミランが前半で3-0とリードしたところで、安心して祝杯を挙げてしまった。つくづく「魔物が住んでいる」ということを実感した。ざて今年は魔物はどちらに襲いかかるのか。

個人的には、セリエAを不正問題で勝ち点を剥奪された状態でスタートしたあげく、インテルに独走されてしまったミランに、CLのタイトルをとることでせめて報いてもらいたい。チームの、それからサポータのプライドを保つ、一番の解決策である。

ミランは、インザギをトップにおいてカカとセードルフを二列目に置いたような1トップ2シャドーで、4-3-2-1のシステム。一方リバプールは中盤の底にシャビアロンソマスケラーノの2人を配してその前にペナント・ジェラード・ゼンデンを並べてカイトの1トップで4-2-3-1型(かと思ったがUEFAのサイトには4-4-1-1とあった)。いずれにしても数的不利の状態を作らないことを念頭に置いた配置。

攻撃型のミランは後ろからの押し上げを如何にゴールにつなげるか、バランス重視のリバプールはボールを奪った後できるだけシンプルに1トップにボールを入れること、そのためミドルレンジからのクロスやシュートの精度が鍵を握るということになりそうだった。また、特に好調のカカの扱いは両チームの戦略上の重要なプロットとなる。

しかし試合が始まると、ミランも非常にバランスを保った、落ち着いたゲームコントロールを見せる。試合を波立てるようなプレーはほとんどなく、リバプールの出方をうかがうようだった。早い時間帯に「わざと」カカにボールを預けて、リバプールのチェックの早さと強さを確認した後は、カカも少し下がり目で、球をさばくプレーに徹するようになる。

ボールの支配率は互角かと思われたが、ゲームの支配はミラン側、しかしゴールの可能性はリバプール側にあるように思われた。攻撃に転じたときのリバプールはやはり効率的であり、ミランの守備陣はチェックよりもゴール前のスペースを消すため、ミドルレンジのシュートコースがしばしば空きがちだった。シャビアロンソやジェラードがちょくちょく顔を出してはゴールを脅かした。もちろん、エリアに入れさせずに打たせるという守り方なわけだから、そういう意味では決定的なシーンはほとんどなくミランの思惑通りだったといえなくもない。ただ、例によってピッポ君が姿を消しているシーンが多く、リバプールの方が一人多いようなボール回しがしばしばみられたこともリバプールシュートアウトされる一因であった。インザギが消えるのは別に珍しいことでなく、一瞬だけ姿を見せて決定的な仕事をするタイプの彼は、守備機会を求められているわけではない。今日もワインレッドのシャツに同色のネクタイといういでたちのアンチェロッティ監督が、1トップにジラルディーノではなくインザギを配したのは、大舞台で彼の持つ「何か」を期待してのことだから。

この日のミランにとって良い方に転んだのは、ヂッダが「手が長い」日だったこと。今シーズンはしばしば乗り切らないプレーをする場面もあり、ブッフォンの獲得話まで出される始末だったが、この日は飛び出しを要する場面もなく(それが原因ともいえる)プレーは安定していた。

お互い、バランスを保ちながらの攻撃で、ミスなく相手のチャンスをつぶす、という時間がつづく。どちらもバランスを崩してまで前がかりになる態度もなく、とにかく試合に変化をつけない。しかし、唯一得点の可能性があるとしたら、セットプレーだ、という場面が前半終了間際にやってきた。エリアすぐ外のほぼ中央でカカが倒されて得た、FKをピルロがスルスルっと助走してゴール右隅へ向けてシュート。そのボールが壁から飛び出したインザギの肩に当たりレイナの逆をついてゴールイン。

こればかりはお手上げ、どうしようもない。しかしこれがピッポ君のクオリティ。

結局そのまま、両チームとも冒険をせず、非常にバランスが取れた状態で、しかしスコアは1-0で前半終了。修正すべき点、というのは見あたらない。むしろあるとしたらミランの側か。しかも1点差では、後半開始からリスクを冒してシステム変更をするのは、却って危険だ、というのが素人の私の感想。しかし、ベニテスは何度も選手起用でマジックを見せてきた。さて何をしてくれるんだろうか、いちばんミランが嫌なのはクラウチなんじゃないだろうか、これが素人の私の予想。

果たして、両チーム選手交代なしで後半開始。

いつまでも様子見、と言うわけではないが、お互いゴール前までの形を作る前に攻撃の芽を摘み続ける。ミランは、このままでもいい、という態度がありありと出始める。リバプールが動いたのは後半15分。ちょくちょくとパスミスや無駄なファイルをしていたゼンデンを下げて、キューエルを入れる。ここでキューエル?ちょっと疑問。

しかし、ゼンデンを下げてボールは良く回るようになり、ここから10分ほどしばらくリバプールの時間帯が続く。ジェラード、リーセ、ジェラードとシュートを打つ(打たされる?)が、得点には至らない。

次々と手を打ってくるかと思ったが、シュートまで持って行けるので、交代しにくいのか。徐々に、攻め疲れということはないだろうが、打開する要素がなく気持ちが切れてきたのか、ファウルも多くなりプレーのスピードが鈍ってきて、ようやく次の交代は後半33分。マスケラーノを下げてクラウチを入れて、4-3-1-2の形に修正。

しかし、ペナントとキューエルの位置が曖昧で、ミランのプレーが待ってましたとばかりにペースアップする。そして37分に、カカがインザギにいわゆるキラーパスを通し、飛び出したレイナをかわすだけで楽々ゴール。レイナの飛び出しは試合を通して安定していたが、このプレーも判断自体は悪くなかった。ただ、DF陣がボールウォッチャーになってしまっていたのが惜しまれる。だがプレー自体のレベルは高く、DFが集中していたとしても、カカにボールが回った時点で勝負ありだったのかもしれない。

2点差となって残り時間も5分を切り、さすがになりふり構わなくなってきたリバプール。CKを立て続けに得たところで、サイドバックのフィナンをアルベロアに交代。ミランもカウンターがあるぞとばかりにインザギに代えてジラルディーノを入れる。その直後のCKからカイトが頭で決めて1点差に。しかしその時後半45分。さて、魔物は発動するのか?眠ったままなのか?

しかし、攻める姿勢を見せなければ魔物も起きない。リバプールはその後もプレーのピッチを上げられず、結局シュートもできずにロスタイム3分が何事もなく過ぎて・・・ミランが優勝!

ミランは4季ぶりの戴冠。リバプールにとっては、動きにくい展開で、うまいこと点を取られていって、対応が後手に回ったことが悔やまれる。ミランの試合運びが巧かったと言ってしまうと陳腐だけど。

それにしても毎度毎度出来過ぎの感もあるが、チャンピオンズリーグでは敗者のリベンジに対して寛容ですね。ユナイテッドにロスタイム逆転されたバイエルンとか。決勝の試合だけを見れば、決してスリリングではなかったけど、背負っているものの大きさを考えて、それに大会全体を通じて、高いパフォーマンスを見せてくれたことには疑いがない。

アーセナルも、この舞台にまた立てれば、チャンスがあるのかしら、などとあらぬ事を考えながら、眠りにつきました・・・

以上。

追記です

1)日付が全く違っていたので修正しました。

2)昨晩、再放送で試合前のマスゲームを音声付きで(ライブの時は音消だった)確認したところ、ゼンデンの状態が万全でない旨の紹介がありました。それでもゼンデンで行けるところまで行きたい、という監督の選択だったと言うことですね。それならばゼンデン→キューエルも仕方ないですね。