11/5 天皇杯 清水vs栃木SC 格下のメンタリティ

プロ野球よりも、高校野球の方がおもしろい、という人がいる。

「人がいる」レベルではなくて、多くの人がそうなのかもしれない。

その話になると、私はいつも「それは野球のおもしろさそのものではなくて、はかなさとか、青春とか、人生のおもしろさなんじゃないの」と反論(同調か?)するのだが。

しかし、かくいう私も、家のベランダから、近所のリトルリーグの練習を眺めていたって、それはそれで飽きないので、気持ちは理解できる。

天皇杯は、本当におもしろい。

ジャイアントキリング」という、結果論だけに留まるのではなく、背負っているものの違いが、時に強者の戸惑いを招くそのさまを見ると、純粋なサッカーのおもしろさ、以外の部分でのおもしろさを、感じることが出来る。

余談だが、バルセロナvsチェルシーでもそう言った部分を感じてしまうところに、辟易してしまう。トッププロ同士の対戦では、そういったストーリーは欲しくない。

清水エスパルスvs栃木SCの試合も、天皇杯のおもしろさが凝縮した、楽しい試合であった。

栃木SCは、JFL中位(現段階で暫定8位)のチームである。今シーズン開幕時は破竹の勢いで連勝したが、夏頃から負けが混んできて、今の位置となっているが、シーズンを通して勝ち越している。JFLで勝ち越しはこの8位まで(13勝7分8敗)で、9位は10勝6分13敗。つまり(大ざっぱに)JFLの上か下かといえば、上のチームである。

しかし、清水エスパルスもJ1でまだ優勝の可能性を残す4位。J1では上のチームである。冷静に見ても、格上といえよう。

力関係を表すように、前半の栃木はガッチリ引いて守ってきた。リーグ戦でも清水は、引いて守る相手を攻めきれない試合がしばしば見られたが、この日も前半は完全に抑え込まれた。むしろ、ゴールチャンスは栃木の方にあった。栃木は、組織的な守備がしっかりしており、かつゴールを目指していることが伝わるため、清水も遮二無二攻め続けることは出来なかったようだ。

後半、それでも清水は地力の違いを見せつける。

後半14分にCKから矢島が先制ゴールを決めると、栃木は前がかりになって点を取りに行く選手と、今のゲームプランを続行しようとする選手と、意思統一ができなくなってしまう。ベンチのプランとしては、後者であったかもしれない失点する直前にも、栃木は絶好機があり、決してノーチャンスではなさそうだった。しかし、ピッチ内の栃木の不連携が続く間に、清水は23分、27分、28分と立て続けにゴールを決め4-0。

試合自体はまあ、決まったも同然だった。

しかし、栃木はもう戦術に迷う必要はなくなった。これ以上の失点はもう関係ない、J1のチームからまず1点、という捨て身の攻撃を繰り出す。選手交代でシステムを変え、サイドから1トップへボールを供給。特に左サイドは完全に制圧と言っても良く清水は完全に崩される形となった。こぼれ球を追しこんで30分に1点返すと、35分は左サイドからのクロスに合わせて追加点4-2。栃木は完全に前がかりのため、39分に5点目を取られるが、栃木の選手にとってはそんなことは関係ない。42分にも左サイドから持ち込んでシュートを決めて5-3とする。清水が6点目ををとってもなお、栃木はロスタイムに点を奪い、最終的には6-4となった。

清水は、二点差にされた時点で、栃木の守備の穴を見つけており、ゴールまでの手順も正確であった。栃木が捨て身で来る以上、清水も付き合うしかなかった、と言うのが正直なところだろう。栃木を抑え込もうと受け身になってしまうと、もっと大きな悲劇を招いた可能性さえある。

美しい形ではないが、点の取り合いに付き合うことで、清水は二点差での勝利を得た。

しかし、清水の選手には未経験の感覚だったと言えよう。同リーグでの戦いではあり得ないメンタリティーで向かってくる相手に、対応できない自分たち。格上ならではの追われる恐怖を感じたことだろう。

何とかできなかったのか、というのが、サポーターの気持ちだろうが、格下の相手とはいえ、あのように向かってこられると、どうしようもなくやりにくいのだ、と理解するしかないのではないだろうか。6点取って勝てたことに安堵しなければいけない。

栃木の選手も決して負けても良いという気持ちでは戦っていないだろう。だが、(純粋にサッカーとしてではなく)試合をおもしろくしてくれたのは、清水相手に手ぶらで帰れない、という栃木のメンタリティーの変化(開き直りともいえる)のおかげだ。

それを単なるアマチュアリズム、と片づけることはしたくない。

ほんの数分で、日本がオーストラリアに逆転されたのも、ガンバ大阪FC東京に逆転されたりするのも、何か大事なものが欠けていたからではないか、と考えている。

それは、相手のモチベーションの変化に対する、想像力であったり感覚であったりするのではないか、と。

このことについては、考えが定まったらまた、文章にしたい。

実力差がある試合で、相手に対応できないチームは、JリーグやW杯でも、対応できるはずがない。それは確かだ。

清水は、おもしろく、そして難しい試合に負けなかった。それだけで、充分ではないか。

一戦必勝のトーナメント戦なのだから。