11/3 ナビスコ杯決勝 鹿島vs千葉 カップを掲げること

Jリーグでは、いくつかのチームが、「黄金時代」というものを作ってきた。その意味合いも、リーグのレベルアップに伴って異なる。初期のヴェルディ川崎(現東京V)の黄金時代、とジュビロ磐田の黄金時代とでは、無論その意義は異なるが、けっして一方が劣る、とか言うわけではない。

まだ歴史も浅いJリーグであるが、とても気になることがある。盛者必衰の理、というように、黄金時代が永遠に続くわけはない。しかし、世代交代に成功して、あるいは、全く別のチームになって、再びトップ戦線に返り咲くチームが現れてこない。

栄枯盛衰を繰り返すこと自体ではなく、そうした復元力がなぜ生まれてこないのか、とても気になる。

鹿島アントラーズも、そうした一時代を築いたチームである。

時代は去ったが、決して、弱くなったわけではない。しかし、以前の黄金時代から比べると、チームもサポーターも満足はしていないだろう。

ナビスコ杯を獲ればJリーグ初の10冠制覇ということだが、9冠目は2002年のナビスコ杯であるから、4年間タイトルから遠ざかっていることになる。10冠目に挑む、(というと毎年大会初頭には挑んでいる訳なので語弊があるが)、リーグ戦の終盤またはカップ戦の決勝まで来るのは、3度目である。昨年のリーグ戦中盤で独走した時は、そのまま優勝するものだと思ったが・・・

今年は5節を残して既に優勝の可能性は消えている。

ジェフ千葉は、いわずもがなの昨年度覇者である。我がガンバ大阪の初タイトルの夢をうち砕いた、オシム千葉ドッグス。ナビスコの悪夢をイメージしすぎる余り、リーグ戦の最終盤でも手痛い敗戦を喫するなど、どうもやりにくい相手である。

いや、今の千葉とやりやすい、という上位チームはいないだろう。自由なシステムチェンジとリスクを負った攻撃は、対戦相手としては楽ではない。誰が出場しても千葉のサッカーが展開できる当強みの反面、相手によって戦術を変えられない硬直性があり、格下のチームに取りこぼしが目立つのも特徴といえる。

ジェフは前哨戦ともいえる二週間前のリーグ戦で、アウェイにもかかわらずアントラーズを4-0で下した。同サイドでのサイドチェンジとでも呼びたくなる、後続の追い越す動きによる展開と、マークした相手を時にほったらかして人数をかけて攻め上がる連係に、鹿島は完全に置いて行かれていた。小笠原抜きではリズムを作ることができずどの時間帯もやられたい放題になってしまっていた。その一方で、千葉はその後大宮に1-3と完敗している。阿部が、大宮の小林に完全に忙殺されて、ぶっちぎられてしまうシーンもしばしばであった。結局、後ろの選手の攻め上がりというのも、阿部のマルチな能力に支えられているところが大きい、ということを露呈した試合でもあった。

ナビスコ杯の決勝も、千葉のやりたいプレーが、忠実にできた試合といえた。鹿島は、ファビオサントスの動きが(相変わらず)悪く、千葉の選手が自由で動けるスペースが多かった。前半早い時間帯にハースが痛んだが、坂本が準備を始めてから交代するまでの間、ハースはほとんど立ったままのプレーで、すばらしいパスを供給し続けた。それがアクセントとなりハース交代後も鹿島の右サイドはスペースを埋めに走る。そのため空き気味となった中央から左を水野や羽生が駆け上がるシーンが何度も見られたが。それでも前半は、鹿島の深井や野沢のすばらしい動きに千葉も対応に追われて、さほど人数をかけて攻め上がらず、総じて中盤を省略したロングボールが多い印象であった。

こうなってくると、前半途中のハースの交代は、むしろ千葉にとって吉と出るのではないか、そんな予感がした。試合が動かなくなると、延長を見据えて、交代機が難しくなってくる。鹿島はどこかで本山を投入して勝負に出たいのだろうが、試合の流れと相手のシステムを見て対応せざるを得なくなってくる。やむなく先にハースを代えざるを得なかった千葉の方が、柔軟に対応できるかと。

もっとも、後半のアタマから千葉は攻撃的に出てきた。その分、鹿島も良い形を作るようになりアレックスミネイロにシュートなどチャンスもいくつか生まれたが、千葉の攻撃に圧力に鹿島は中盤の底以降が押し込まれ、前線とスペースが空いてしまう。今度は鹿島がロングボールでボールを配球するようになり、それを千葉が拾って展開する形が多くなってくる。ゴールは時間の問題、という時間帯が続き千葉はじわじわ圧力をかけつづけるが、ハースがいない千葉は形は作るがやはりパンチ不足で、大岩の奮闘もあって決定的なシーンが封じられ続けた。

20分すぎから阿部の攻撃参加の機会が増えてきて、これでもなお点が奪えなければいよいよ膠着状態だな、という展開で、両チーム選手交代も動けない。鹿島は本山を準備しているが、投入機がない。

しかし鹿島の前線の選手は動きが鈍っており、千葉のDF陣の攻撃参加はもはやほとんどリスクを負っていない様な状態であった。鹿島はここで攻撃の選手を投入できれば、ずいぶん試合展開は変わったろう。だが、それよりも先に千葉が、均衡を破った。坂本からのパスを水野がトラップして素早くシュート。彼得意のプレーである。鹿島の守備は人数的には余っていたが、走り込む後続の千葉の選手が見えたか、水野のケアが少し遅れた。千葉先制1-0。

そこで、鹿島は、本山をすぐ投入するかと思いきや、二枚替えを試みるようで、すぐの交代はない。そして、そのほんの2-3分の間に、千葉はCKから二点目を奪う。水野から阿部のヘッド。ここでも鹿島は、巻のケアに気を取られており、阿部を簡単にフリーにしてしまった。もちろん阿部もうまいのだが・・・

鹿島はその後3枚代えてきたが、いかにも時機を逸した感が否めなかった。

だが、代え時が本当に難しかったのも理解できる。失点シーンは、どちらもシステム的には対応できていたのだから、個人的な能力の差で決められてしまった、としか言いようがない。ただ、試合の流れと消耗度を考えても、違う手が打てたのではないかと考えると、鹿島にとっては残念な結果だ。千葉の圧力を受け続け、肉体的な消耗度もそうだが精神的に相当消耗していたのではないか。

千葉の2-0で試合は終了。

PK戦ではなく、90分での勝利で、千葉がナビスコ杯連覇を決めた。

PK戦の勝利はサッカーの勝利ではない。

昨年度も千葉はカップを掲げたが、その時の喜びはサッカーに勝ったのとは異質な喜びであった。優勝したが、今日の試合は勝っていない。もちろん嬉しいのだが、その喜びは、試合に勝って掲げるカップの喜びの方がはるかに大きかろう。

千葉にとって、昨年がPK戦決着での初優勝、今年が90分決着での優勝、という順序になったのは幸せなことだろう。逆ならば、複雑な表情となったはずだ。

千葉は、クラブの歴史の中で、少しずつ幸せを経験していっていることになる。

どれだけ常勝軍団となっても、選手にとって毎回の優勝は常に格別な思いであろう。しかし、「優勝慣れ」で最高の笑顔を失ってしまっていないか。爆発的な喜びを、選手も、サポーターも、失ってしまっていないか。

Jリーグで、常勝軍団が、再度復活してこないのは、もしかすると優勝に対する謙虚さが欠けているからではないだろうか。

そんなことを思った。千葉はまだ常勝軍団と呼ぶには早い。(いわんやガンバ大阪をや、だ)

これから、何度大きな幸せを経験することか判らないが、今年、ナビスコ杯を掲げた喜びに、慣れないでもらいたい。

そして鹿島は、きっとまた復活するチームである。必ずしも自由に選手を海外に送り出している訳ではないが、選手の育成と日本サッカーへの大きな貢献に関する姿勢は、サッカーに対する謙虚な姿勢、そのものである。

Jリーグの過去・現在・未来が交錯する、重要な試合であったし、とても美しい意味を持ったゲームであった。